第六話 「機神将」

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さぁ童(わらし)ども、早く入った、入った。戸を閉めろ。灯りを漏らすな。
皆、揃っておるだろうな?
タチもクゼもキグロもおるな? クラはどこぞで迷子になっておらんな?
よしよし、ならば聞くがいい。
この話は、俺が、おまえらの年、俺が爺さんから聞いたもんだ。爺さんは、そのまた爺さんから聞いて、その爺さんも、また、爺さんから聞いた。
おまえらも、俺が死んだら、俺の代わりに語り継げよ。だから忘れちゃなんねぇぞ。
この話をするのは一生に一回切りだ。外に漏らすなよ。漏れたら祟るぞ。祟れば死ぬぞ。死ねば迷うぞ。迷えば凍え、砕け、おとうにもおかあにも会えぬと思え。
よいな?
さぁて、では秘密、秘密の話だ。
おまえらの中で、 この時代の宗教宗派は様々だが、農村部では、太陽信仰が一般的である。太陽がなければ農作物は取れない。人は太陽と雨の恵みによって生きて行くのである。 お天道さまに文句を言ったことのないやつはおるか?
秘密にするから言ってみよ。あぁ責めてはおらん。
憂き世に、つらいことは多いな。老いて死んで病んで別れて。毒の陸地にシノビはうろつく。
腹も立つし、文句も言いたくなるな。

だがな、童らよ。これだけは覚えておけ。この世に理由(わけ)のないことなどない。
ちゃぁんとあるのよ。
俺らが、ここで苦しむ訳が。

昔、昔、ずっと昔。内の陸が、毒にまみれる前の話だ。
その頃の人と来たら、こりゃぁすごかったぞ。
毎日、腹一杯飯が食えた。誰も彼も、爺ィ、婆ァになるまで生きた。子供も楽に生まれてきてな。
一人一人が、城みたいなでかい家に住んどった。

どうだ。それなら文句もないだろ。

ところがなぁ、それでも人は文句を言ったとよ。
隣のやつと比べてなぁ、あっちのほうがすごい、もっとほしいと言ったとよ。
互いにそう言ってりゃ、どんだけあっても足りやしねぇ。なぁ。
挙げ句の果てに喧嘩だ。喧嘩が大きくなりゃ戦(いくさ)だ。
昔も今も変わらんなぁ。

人がいっぱい死んだとよ。城みたいな家がいっぺぇ燃えて、死人のせいで川があふれて、真っ黒に染まったとよ。
あんまり死んだせいでな、こことあっちとの境目が破れて、出てきたんだよ、あれが。シノビが。
忍ぶからシノビというが、ありゃあとから言われたものでな。
昔は 古代語で“死人”の意か。あるいは何らかのアクロニム(頭字語)でないかとも考えられているが、その実体は定かではない。
いずれにしてもシノビはシノビであり、人類の天敵である。
シンビート
だか言ったらしい。
シノビが強ぇのはな、元から死んでるからだ。
あいつらは、俺らをあっち側へ引き戻そうとする。
それもこれも、昔の人が、隣のやつを羨んで、喧嘩したからだ。
だからなぁ、おまえら、つらいことがあっても、羨んだりするんじゃねぇぞ。

ん、なんだ。昔のやつらのせいで、俺らが苦しむのはおかしいって?
ふうん、まぁ、そうは思うよな。

遠くにおられる御方はな、こっちにあふれたシノビを退けるために、しもべを使わされた。
それが 頭頂高:十六丈(48.65m)<推定>
本体重量:十一万二千貫目(420.5t)<推定>
全備重量:十二万六千貫目(473.2t)<推定>
アイドリング時平均出力:百万馬力(750MW/日本馬力換算)<推定>
最大出力:不明
主推進器:複合慣性制御型アルゴリズムクラスター推進器“アマノイワタテ"(推力は操縦者の精神力に比例。理論上は亜光速まで加速可能)
副推進器:姿勢制御用零点エネルギー噴射型姿勢制御ロケット(推力1.2Mn×12)
主動力:GL05式武士道エンジン
副動力:超フライホイール
装甲材質:ハガクレニウム系合金チタンセラミック複合材
主兵装:ハガクレ・ブレード
開発:GSC/大久保重工

かつての戦争において作り出された巨大人型対シノビ兵器、あるいはそのように類推されるロボット兵器。
戦後、いくつかのパーツに分割された上で本体は不二の神殿に封印されるという厳重な管理下に置かれていたが、これは本機の特殊性に由来する。
武士道研究の結果生み出された同機は、人間の“精神力”をハガクレニウム合金によってエネルギー化することで従来の超フライホイール駆動型自動甲とは文字通り比較にならない天文学的出力を得た。しかし代償として搭乗者の精神力の消耗は著しく、常人ならば三分で廃人となる。この搭乗者となるべく生み出された遺伝子改造兵士が、後の“ヤギュウ”であるとする説もあるが定かではない。
ハガクレニウムへの供与出力が足りていないときは操り人形のようなぎこちない動きだが、十分な出力が提供されると、人間を越えた極めてなめらかな動きを見せる。
機神将、ギガロード
だ。
機神将というのはな、元々は、昔の人が作った、戦の機械だったというぞ。だが機械とはいえ、修行の末に人を越えて、ついに神に至ったという、どえらい御方だ。

機神将様はすごいぞ。ひとたび動けばな、山だってひとまたぎだ。
背には、 マントに見えるものはハガクレニウム合金製の複合兵装ユニット“アマノイワタテ”。微細な慣性制御装置の集まりであるこのユニットはハガクレニウムで出来ており、切断、防御、慣性制御の応用による硬X線レーザー砲などに使用することができる攻防一体の武器である。 日輪を編んで作った外套を着てな。
腕には、 そして最強の武器、ハガクレ・ブレードは同機の出力を瞬間的に運動エネルギーに転換することによってあらゆる物体を両断する最強の刀である。“アマノイワタテ”による防御力・運動性は、ハガクレ・ブレードを有効に使うため敵の間合いに飛び込むための手段に過ぎない。
すさまじい放熱を行なうため、最大稼働時は周囲に高熱の嵐、熱風が吹き荒れる。
稲妻を鍛えた剣
を持つというぞ。
詳細不明だが、三つの光が融合する、という絵姿でのみ示されている。パラジウム式常温核融合炉をハガクレニウムによって実現しているという説が濃厚。 太陽を三つ胸に納めて、不浄なシノビを焼くというぞ。

機神将様はな、そりゃすごい力を持ってるんだ。
だけどな、その剣は、うかつに抜けば、死ぬのはシノビだけじゃねぇ。人も牛(べこ)も山も川も、みーんな、みんな、焼けてしまう。

そうやって、みんなみんな焼いて、また一からやり直すというのが、上の御方の思し召しだったそうな。

だがな、機神将様は、それは悲しいと思し召された。元々は人に作られたせいかもしれんな。
だから今は、じっとこの世を見てるんじゃ。
何を切って、何を残すか。
草の一本から、獣の一匹、人の一人一人までを、じーーっと見とるんだと。
じっとじっと見て、これでよし、と、思った時に、動くんだと。

そうすりゃ、シノビも、毒も、悪いやつも、みんな焼かれて、いい時代が来る。

だからな、おまえら、機神将様の目にかなうように生きるんだぞ。
ねたむなよ恨むなよ怒るなよ。互いに助けろよ。仲良くしろよ。
そうすりゃ、きっと、機神将様が目覚めてくださる。



テキスト:海法紀光(ニトロプラス)、小太刀右京(ニトロプラス)
イラスト:中央東口(ニトロプラス)、くろやぎ